告白
とある職場の送迎会。
フランス料理がおいしいことで有名な店を借りきって、30人ほどの参加者で盛り上がっていた
異動になった人、アルバイトから再び学生に戻る若者、そして、夢を追いかけるために上京するリポーター
迫り来る別れの時間を惜しんで、各々が思いを伝え合っていた
送別会も終盤、みんなで協力して購入したプレゼントを渡すイベントが行われていたときのこと。
順番的には、卒業するリポーターの女性の番だった
『ちょぉっっっと待ったー!』
若い男の低い叫び声が、盛り上がっていた会場内をざわつかせる
『おい、なんだなんだ?』
『まっちゃん、どうした』
まっちゃんと呼ばれるメガネのひょろっとしたその若者は壇上に上がり、リポーターの前に立った
目の前にいるリポーターの女性は、きょとんとした顔で、若者の顔を見つめている
若者はその視線にどぎまぎしながらズボンのポケットから、くしゃくしゃの手紙を取り出し、緊張した面持ちで読み始めたのだった
『きょうで番組を卒業されたみほさんに、どうしても伝えたいことがあって、目の前にすると緊張して、言葉が出てこなくなっちゃうんで、手紙を書いてきました。よかったら、聞いてください。
1年前、僕はテレビのディレクターとして、この世界に足を踏み込みました。
覚えている限りでの、みほさんとの最初の会話は
「…みほさん、ちょっといいですか?」
みほさん「え。なになに!?告白!???」
…でした。
入って一週間も経たない男がいきなりリポーターさんに告白するなんてどんな男だよ
近くにいたプロデューサーが、
「職場恋愛は、禁止やからな」
…と、鋭い目で睨み付けられたのを思い出します。
ただみほさんを呼んだだけなのに。
2ヶ月くらい経ったある日のこと。
相変わらずボーッとして仕事でミスを連発し、先輩に怒られてしょげている僕に、みほさんが話しかけてくれたことがありました
みほさん『私も、1年目の頃はずっーと泣いてた。いまでも怒られてばかりだよ。私だってまだまだ新人。大丈夫。まっちゃんは、面白いから。』
みほさんは優しくほほえみながら、励ましてくれました
今でも、忘れられない言葉です
その頃から、みほさんのことを意識しはじめたような気がします
3か月後、僕もディレクターとして特集を任されるようになり、みほさんとの特集は、数珠つなぎになっていない『数珠繋ぎの旅』や、ギリギリまで仕込みをしていた『特製おでんをつくろう』
『判定団』のコーナーでも、ディレクション不足。
みほさん「まっちゃんがディレクターなんだよ?どんどん個性を出していかなきゃ!」
路地裏で、みほさんに叱られたのを覚えています
「京都すごいもの」では、怖いことで有名なベテランカメラマンと取材しましたね。
取材1日目の夜、ホテルの一室に僕とみほさんとカメラマンとカメアシさんで集まってお酒を飲みながら、修学旅行生みたいな雰囲気でエロトークに花を咲かせたんだっけ
飲み会が終わり、帰り際、みほさんとふたりきりになって、僕に対して遠い目をしながら
みほさん『まっちゃんにも、性にオープンになる日が来ると思うよ』
…と一言残して、部屋を出ていかれました
その時のみほさんの表情が儚げで…
童貞だった僕は、その表情にどきどきしていました
『僕は、みほさんにオープンしたい…!』
もちろんそんなことは口に出せず、もんもんとしたものです
おっと、話が訳の分からない方向に向かってましたね
失礼しました
みほさんが、番組を卒業するとプロデューサーから聞いた11月。
その知らせを聞いたときは、本当に辛かった
編集室で、みほさんのVTRをつなげながら泣いてたし。
体の奥底にずしんと重い空気が滞ってたなぁ
いつまでも、あると思うな、親とみほさん
朝方の編集作業中、みほさんが声をかけてくれるのが本当に楽しみでした
すっぴんのみほさんがまたかわいくって…
(会場からキモいコール)
と、とにかく!
振り返ると、今でもみほさんがそこにいるような気がして…
もう、みほさんはいなくなるっていうのに
だから、最後に、ちゃんと想いを伝えさせてください
新たなステージへと挑戦するみほさんを…寂しいけど…応援したいっ
そして…
僕は…みほさんのことが……』
若者はありったけの声で、想いを叫んだ
そして、彼女は笑顔で、こう返事をした
『…友達からということで♪』
ひとりの男の青春が、ひとつ終わりを告げたのであった
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すぐネガティブな考えになっちゃう自分を、いつもポジティブな言葉で支えてくれたみほさん
本当にありがとう!
また、一緒にお仕事できる日を願って
この仕事、頑張んなきゃ
最後、別れ際にみほさんに言えなかったから
このブログで言います
『またね!』